本田宗一郎のことば

見たり聞いたり試したり

(1958.S33.2 社報)

 

 

 人間の知恵というものは、見たり聞いたり試したりして、この三つで我われは大体こうやるべきだという判断をしているんだね。

 

 しかし、この三つの要素のうち、大切なのは見たり聞いたりではないんだね。試したりということが、いちばん判断の資料になるんだね。

 

 こういう例があるんだよ。

 

 戦時中、某プロペラ会社の顧問をやっていたとき、プロペラを削ることでいろいろ議論し合った。

 

 そのとき、そこの社長が東大出の秀才だと言われているある一人に尋ねた。「Aさん。これ大丈夫か」。Aさんのいわく「○○の本にこう書いてあるし、また△△会社でもそうしているから大丈夫です」とこういう返事なんだね。次に「本田さんこれで大丈夫か?」ときかれた。 「俺はこうこう、こうやったんだから大丈夫なんだ」と言ったんだよ。

 

 これだけの相違があるんだな。受ける感じが全然違うですよ。(ここで机をダンダンと叩く)やったからいけるんだということ! これ程間違いのないことはない。

 

 そこで私の方が採用になって、それを使ったことがある。

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