本田宗一郎のことば

わが社存立の目的と運営の基本方針

(1954.S29.3 社報 本田宗一郎)

 

 

わが社存立の目的

 わが社はオートバイならびにエンジンの生産をもって、社会に奉仕することを目的とする。そこには作るものの喜びと、売る人の喜びがなければならない。しかし、より重要なことは、わが社の製品を買ってくださる顧客に喜んでもらうようにしなければならない。

 

 作って喜び、売って喜び、買って喜ぶ三点主義こそ、わが社存立の目的であり、社是でなければならない。

 

 この三つの喜びが完全に有機的に結合してこそ、生産意欲の昂揚と技術の向上が保障され、経営の発展が期待されるわけであり、そこに生産を通じて奉仕せんとするわが社存立の目的が存在する。

 

 

わが社運営の基本方針

 わが社がその目的を実現することは、とりもなおさず、その製品にホンダの精神がにじみでているようにすることに他ならない。

 

 作る人、売る人、そして買う人まで、みんなが喜ぶ製品が作りだされるためには、会社は常々次のような方針にのっとって運営されなければならない。

 

 

一、人間完成のための場たらしめること

 製品はすべて従業員の努力と研究の精華であり、真心のこもったものであることが必要である。このことはすべて生産にたずさわるものの人間完成こそ、重要な前提でなければならないことを意味する。わが社の職場は生産の場であると同時に、従業員の修養と陶冶の場でなければならないし、そこに蓄積される人間的な力と善意こそ、世界の市場に歓迎される商品を生みだすためのよりどころとなることを確信する。

 

 

二、視野を世界に拡げること

 技術が世界に通ずる限り、我われの視野は常に世界に注がれていなければならない。わが社は、今や完全に日本オートバイメーカーの主導権を握っているが、わが社の発展を希求するあまり、他社がわが社とともに戦後ここまで伸びてきた意義を忘れてはならない。わが社とともに全体の水準を上げていくことこそ、日本をよくし、世界をよくする道であることを認識し、目先の利益にとらわれることのないようにしなければならない。

 

 

三、理論尊重の上に立つこと

 近代産業の先端をいくわが社が、理論を尊重することは当然であるが、最高の製品は最高の理論の上に立って組立てられるものであることを銘記して、理論の発展とともにわが社の製品も向上させなければならない。

 

 理論は万国に共通し、一国一社に障壁を作らない。理論を尊重し、それに拠って生産を拡大する限り、わが社が世界に伸びることも当然であり、世界の人に喜んでもらえることも充分に確信できる。

 

 

四、完全な調和と律動の中で生産すること

 芸術的な作品が美しい調和を示しているように、わが社の製品もまた調和のとれた美しいものでなければならない。その調和のとれた美しい製品を生産するためには、あたかもオーケストラがすばらしい音楽を奏でるように、旋盤も組立てのコンベアーも、あるいは、エンジン検査も、完成車の試験までも、工場のすべての機能が一つの律動となって流れるようにならなければならない。

 

 清潔整頓ももちろん大事であるが、全従業員が一丸となって、そこに精神的和合を完成したときこそ、まさにこの状態に達するものであることを知らなければならない。

 

 

五、仕事と生産を優先すること

 資本は目先に動かされやすい。わが社が今日を築き得たのは、常に仕事を優先し、理論と時間とアイデアを尊重してきたからであって、この方針は将来も変更されるべきでない。資本は仕事と生産のために奉仕するものでなければならない。

 

 

六、常に正義を味方とすること

 常に正しくあることこそ、自分を一番強くすることである。最後の勝利を決す

るものは正しいか否かということであって、強いか弱いかが勝敗を決するものではない。

 

 個人個人の能力の差というものは、平常のときはさほど表われるものではない。本当に困りぬいた最後のときに、その問題を解決できるか否かが人間の能力の差であり、正義に味方している限り、必ず道は開け困難は打開されるものである。

 

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