本田宗一郎のことば

不満の芽は大樹への成長である

(1962.S37.1 技研弘報)

 

 

 いつかテレビで、芥川龍之介の「芋粥」というのを見て感じたんだが、ある赤っ鼻の風釆の上がらない侍が、芋粥を食いたくてしょうがないんだよ。

 

 そこで同僚の一人がからかって、たらふく食わしてやるからということで、旅をするわけだ。そして、あしたはその芋粥が腹一杯食えるという夜、変に微妙な気持ちになるんだな。

 

 ここでだ、その男がそのあした芋粥を食べて食べて、ああこれで言い残すことはないと満足すれば、馬鹿だということになるんじゃないのかな。だから、今年、研究所ができたわけなんだけれども、完成してしまうと、なにかもの足りなくて、あれもやりたい、これもやりたい、ということになる。

 

 こういう気持ちはおれだけじゃなくて、うちの従業員みんなが持っているんじゃないの。持たなければ進歩はないものね。

<<前のページ                                     次のページ>>