藤澤武夫のことば

私達の選んだ道

(1965.S40.1 社報 藤澤武夫)


■もし、二輪だけを生産していたら

四輪車生産設備はSFを含めて七十億円以上、そしてこれまでの損失を三十億円とすると、ざっと百億円が四輪車を手がけたために費やした金である。


したがって、もし二輪車だけを生産していたら、借入金もそれだけ少なくなりそのときのバランスシートは、まず優等生となっていたに違いない。


■もし、他の四輪メーカーと同じ考え方で進めていたら

設備はするとしても、損失はもっと少なく、あるいはすでに多少の利益さえだせていただろう。


利益がでていれば、ホンダの四輪車は成功したと世間から評価されていたに違いない。


■ところが、私達が選んだ道は

 

前の二つの道をとらないで、私達が選んだ道は、二輪車で積み上げた知恵とあえて安易な道を取らなかった努力の過程を、今度は四輪車に注ぎ込み、全社苦しみつつ、おのおのの仕事を深く掘り下げることであった。


このため金を損失し、バランスシートを悪くした。


そしてホンダの四輪車は失敗ではないかとの世間の取り沙汰を受けた。


だが、そのかわり二年間五万キロ保証という大金看板をあげる自信がついたのだ。


これから五年先、十年先に、どの道が私達の夢に近いのかを考えてみるのも今年のお正月にふさわしそうだ。