藤澤武夫のことば

作っても作ってもなおたりぬメーカーが驚くこの需要

(1952.S27.5 月報 藤澤武夫)


昔からオートバイ業として販売している方が、最近この四種の免許証のこの種のものができてから、月をおって需要が増えてとまることがないのに驚いています。


昨年の今頃このオートバイ製造業者の会合のとき、ホンダがドリーム号月産三百台を作ると発表したら、業界の人が「そんなに作っても売れるものじゃない」と言ったり、ある官庁の人からは、資材を取るために架空の数をだすことは見合わすように、との注意を受けたものです。銀行に金を借りにいくと「そんなに作っても売れないでしょう」と言う、まるっきり私どもの周囲の人達から全部反対を受けました。


私どもは思うところあって、その計画を実行しました。


ちょうど一か年を経過した今、月産六百台を超えてなお需要者が各代理店へ申し込まれてから、相当の日数をお待ち願うといった状態なのはいったいなぜでしょうか。恐らく毎月千五百台ぐらい作っても必ず売れる状況と判断されます。


私どもの手許(てもと)へ毎月の販売月報が代理店から届きますので統計にしてみますと、その八割、五百人ぐらいが中小企業者です。これはご主人かまたは有能な社員がお乗りになって活躍されているわけです。


回わって歩けば数日を要する仕事を一日で処理しなければならぬとき、代役では解決つかぬ場合、この金融上つまっている現在、この車の果たす役割は実に大きいのでしょう。


弊社の従業員は三百人ばかりですが、乗用車三台、三輪車六台、ドリーム号四十台を動員して、社外へ社用のとき、全然電車を利用したり、自転車を使用してはいません。


社長の趣旨"時間を金で買え"を実行していても、なお一日の活動時間中無駄な時間がかなりあります。一定時間の仕事能率を上昇させることのために草鞋(わらじ)から自転車、そしてオートバイまたは自動車を利用することを一刻も早く移すことが近代企業成功の早道だと思います。


結論として中小企業者の勘の鋭さと英断とは、やはり日本の経済からはそう簡単に抜けきるものではないことを痛感します。