藤澤武夫のことば

会社の現状から

(1956.S31.5 社報 藤澤武夫)


微妙な世界経済の動き


世界の経済は今好況である。この世界の経済と日本の経済は、やはり同じように上下する。


アメリカは非常に伸びた昨年に引き続き依然好調を伝えられ、特に工作機械その他合理化設備を作る会社は伸びている。が、その反面自動車、テレビ、電気冷蔵庫等は昨年の異常な売れ行きが圧迫となり、本年は伸びが停止している。特に自動車は春になっても下降を続けている。これから伸びてゆくのか、ここが中だるみの調節期間であるのか、このまま伸びずに終わるのか、微妙なときのようである。日本経済に波及する影響がこんなところから思いがけなくでてくるかも知れない。我われとしても注意をおこたってはならないところである。


好調な日本経済


一方日本の経済は今どんどん伸びている。


ある銀行家が 「今年の産業界は全般的によい。どれをみても一般に上昇している。今年ありた利益のでない会社は、会社内部のドコかに欠陥があるからで問題にはならない。が、勝ってカブトの緒をしめるとはまさにこういう時機を言うのだろう。地固めするには絶好のチャンスだ」と。


それほど、どこの会社もよい。


実りつつある合理化への努力

 

会社の現況は順調であり、好況に向かっているといえる。この歩みは続けさせなければならない。合理化への努力は着々と進ちょくし、企業自体も堅実な方向にあると言えよう。


協力会社への支払いも、銀行からの融資と、売れ行き増によって好転している。もちろんまだ不満足なものではあるけれど、とにかく漸次是正されていることも確かだ。

 

売れ行きは順調、来期にも悲観する材料はないと考えている。ただし世界経済の変動が起こった場合、その余波をこうむることはもちろんである。またこのような変動は急激にくるものであることも、常に警戒しなければならない。


このような状況において、今期の利益は三億ぐらいでるであろうと予想しているが、実現すればまことに嬉しいことであり是非実現させたい。


合理化措置が実を結び改善がなされた来期には、なお見るべき業績のあることを期待できる。ここにいたるまでの全従業員諸君の会社に対する愛情と信頼、会社を盛り育てていうことする意欲と努力は実に賞賛されるべきものと思う。

三億円の利益では零になるのだ

"どのぐらいの販売価格にすれば現在の数量は売れる?"


これは興味ある質問であろう。私は"トヨタの会社がどのぐらいの知恵を絞り上げた結果を、国民車単価として発表できる?"の反射と考える。そこで販売し得るウチの製品の単価を決定せざるを得ない。それに引き合う製造原価が当社としてできるかできないか真剣に考えざるを得ない大問題だ。これが、コストダウンを強く叫んでいた原因であった。


かなり諸君の努力が実を結び、このような効果があったのだけれど、ますますあらゆる角度から考慮して、四輪に対する価格体制を明年末までに完了する必要があろう。それができれば、もちろん二輪車を続けて生産しても充分に対抗できるし、不景気になっても、このことは立派に効果あった措置として通用すると信ずる。 "今ホンダが四輪車を作るとしたら"米英に戦いを挑んだ第二次大戦と同じで、その結果は間違いのないところだ。が、がっかりしてはいけない。歴史が浅いのだ。諸君が入社してからの日を数えればすぐわかる。それにしては素晴しいのだから-